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間が空いてしまいましたが、続きです。


後、拍手漫画更新しました!
前回の続きになっております。前回分はサイトの方に更新しました。
気になる方はこちら→拍手を送る




拍手









ペンションの中のレストランで、サンドイッチを齧る。
昼飯から一々コース料理を頼むのが面倒で、スープとサンドイッチにコーヒーだけを頼んでしまったが、周りは優雅に食事を楽しむ金持ちばかりで浮いてしまう。
まぁ、コース料理を頼んだって、赤木がいなけりゃマナーも何も分からない。
むしろ、何であいつは知ってるのかが不思議だ。
出来るだけ周りを気にしないように、サンドイッチを咀嚼していると、自分の前の席に赤木が座った。

「美味しそうじゃない…サンドイッチ」
会って早々、皮肉か。
赤木はコーヒーだけ頼むと、何故か俺のコーヒーに砂糖を入れた。
「どこ行ってたんだ?」
好みよりも甘くなったコーヒーを啜る。
赤木はズボンのケツに挟んでいた雑誌をテーブルに置くと、ため息を吐いた。
「別に、雑誌を買ってただけ」
テーブルに置かれた雑誌は、どうやら三流のゴシップ雑誌のようで、とても赤木の興味を引きそうな雑誌ではない。
「この雑誌がどうかしたのか?普段買わないだろ」
残りのサンドイッチを口に放る。
その様子に、赤木は静かに笑った。
「まぁ、知り合いの記事があったものでね。特に意味は無いさ」
それにしても、こんなところでそんな三流の雑誌が買えるモンなんだな。
「どこで買ったんだ?それ」
「買ってきてもらうよう頼んだんだけどね、丁度これだけあったらしい。どうやら、手違いで注文してしまったそうだよ」
タイミングが良かったんだと、赤木が言う。
手違いで注文するような雑誌とも思えないが。

コーヒーでサンドイッチを流し込み、一息吐く。
「それにしても、カイジさん。アンタやっぱりこの事件に首突っ込んでるみたいだね」
「えっ…」
驚いて赤木を見ると、赤木は涼しい顔でコーヒーを啜っていた。
「まぁ、アンタ一人でやる分にはどうでも良いけどね。人の迷惑だけは考えてよね」
人にそんな事言える人間か…!
けど、それは十分理解してる。
それでも、何かしたくて。でも、出来る事は限られてて。

「赤木…お前さ…本当に一条が殺ったと…そう思うか…?」
俺の問いに、赤木は少し間を開けて「さぁね」と小さく呟いた。
「ただ言えるのは、どちらにせよ彼が原因だろうと言うことかね…」
それだけ言うと、赤木は小さなメモ書きを俺に差し出す。
紙は部屋に置いてあるペンションのメモ用紙のようだった。
「それ、カイジさんに飲ませた薬の名前と、量と時間ね」
そうだった。
コイツ、俺のこと実験台にしたんだった。
メモ書きには、片仮名の見たことのない名前が書いてある。

「クロロホルムじゃないんだ…」
名の知れた麻酔薬を呟くと、赤木は鼻で笑う。
「クロロホルムは吸引でしょ?まぁ、飲みたいなら飲んでも良いよ。死ぬけど」
平然と怖いことを言われて、頬が引き攣った。






きっと、俺が悪いのだ。
安いベッドが、俺の動きに合わせて悲鳴を上げる。
その音がまるで、俺を責め立てる様だった。

あの夜、彼は俺に言ったのだ。
懺悔の言葉を。
そして、残酷な決断を。

目を瞑り、枕に顔を埋める。
彼の死に顔が目に焼き付いて離れない。
冷たくなった彼の体温が忘れられない。
数時間前は俺を愛してくれていた筈の彼の体温が。

ナイフを彼に刺したのはきっと、俺なのだ。




「館長」
心配そうな声と、抱えたミネラルウォーターに気付け薬。
大柄な体で大事に抱えている様子は、見ていて少し滑稽だ。
「起きましたか…どうぞ」
柔らかく笑って、彼はミネラルウォーターを手渡してくる。
普段は、威嚇する様に俺の傍らで周りを見回す彼だが、身内に対しては時折こういった顔を見せる。
有り難く受け取り、ペットボトルに口を付けた。
直前まで冷蔵庫に入れてあったのか、キンと刺すような冷たさが喉を通る。
彼は、まだこういう所で気遣いが追い付いていない。
「どうなってる」
敢えて主語は入れずに言った。
すると彼は、隠し事のバレた子供の様に眉を下げる。
似合わない作り笑顔まで浮かべて、厭に気遣った様子だ。
「大丈夫です。どうにか客も抑えられましたし…警察は呼んでいません。その代わり、帝愛にあの方は引き取られて行きましたが」
あの方。
彼が触れたのは、俺が最後だっただろうか。
昨日、彼が唇を落とした所を触れる。
彼が最後に見ていたのは、本当に俺だったのだろうか。

「分かった。俺はもう大丈夫だ。任せて悪かったな、ご苦労さん」
彼の肩を叩くと、心配そうに俺を見つめる。
犬だな。まるで。
「大丈夫だから」
優しく笑って、近くのテーブルにあった鏡を取る。
酷い顔だ。
あのまま気絶してしまったせいで、髪もグシャグシャ。
そうだ…。
「村上、お前がコレ着せてくれたのか?」
肩幅の少し広い、白いYシャツ。
俺の手持ちにこのテのモノは無いから、彼のだろうか。
すると彼は、耳まで赤くして目を伏せる。
「その…あのままでは…流石に…」
裸とは言葉にしない辺り、彼の感情はすぐ分かる。
「ありがとな」
俺が言ってやるだけで、彼は大変嬉しそうに頬を緩めた。
馬鹿な男だ。
いや、それはきっと俺も同じか。

改めて鏡を覗けば、彼は内ポケットから櫛を取り出して、馴れた手付きで俺の髪に櫛を通す。
「痛かったら、言ってくださいね…」
こんな芸当、いつの間に覚えたのか。
鏡越しに彼を見ると、彼は酷く緊張した様子だった。

彼は俺の犬だった。

目を瞑ると、彼が戸惑いの息を吐く。
図体はデカいクセに。意気地無しめ。
ベッドの軋む音がして、俺はゆっくり目を開ける。
カーテンを閉めた窓からの光は、少し頼り無い。
「着替えを、取ってきてくれ」
伸ばされた腕に目を向けず、それだけ言えば、彼は名残惜しげに眉を歪め、腕を下ろした。
「分かりました」
普段通りの無駄にデカイ声が、寧ろ今は不自然に聞こえる。

彼は俺の犬だった。
少なくとも、昨日までは。




十一

「やっぱり、梯子の跡とか無いな」
屋敷の裏手、事件のあった部屋の窓の真下に来ていた。
そこは近くに森があるせいか、長年の落ち葉が土になっていて軟らかい。
梯子を立てて上ろうモンなら、確実に跡が残る。
もしくは、それを誤魔化した靴の跡でも残ってないかと思ったが、そう言ったモノは見当たらない。
まぁ、そんなモノが残っていたら、あの窓からの侵入だって言っている様なもので、あんな密室を作り出したにしては気が抜けすぎている。

「窓からの侵入も不可って事か…」
それにあの部屋に入ったとき、窓は閉まっていた様にも思える。
村上って奴が、窓の鍵を開けているのを見た気がする。
となると、ドアの鍵の開け方、他の出入り口の可能性を考えるべきだろうか。
それこそ赤木の範疇なのだが。
「アレ?何だあれ」
ふと視界に入ったモノに手を伸ばす。
屋敷の壁に這った植物のツルに絡まったそれは、薄い茶色をした一枚の紙だ。
何かの包み紙の様な素材だが、飛ばされて来たのだろうか。
何にしろ、ただのゴミには違いないか。
ただ、どこか気になって見てみると、その紙にはある会社名が書いてあった。
しかし、どこで見た会社名だったか。
思い出せず、取り合えずそれを持ってペンションに戻った。


さて、ここからどうしようか。
行き詰まって、それならばと現場に向かってみる事にした。
今なら、まだ何か残っているかもしれない。
死体を見て直ぐでは、見落とした事もあるかもしれないし。
見張りでも居て入れない可能性も高いが、それならそれだ。
絨毯の敷かれた階段を上り、現場となる部屋に向かう。
外に見張りの様な人はいない様だ。
鍵は壊した筈だし、不用心だと思うが…。
「入りますよぉ~」
誰に言う訳でもなく、そろりとドアを開ける。
顔を奥の部屋に向けると、ドアが開いたままなせいで血溜まりが直ぐに視界に入る。
しかし、そこにあった死体は消えている。
救急車や警察を呼んだ訳では無いようだから、バックの帝愛が処理したんだろう。
死体の処理なんて、彼奴等ならお手の物だ。

胸を何かが這うような不快感に、軽く拳で叩く。
気を引き締めて足を前に出すと、奥の部屋の死角から腕が伸びた。
人が居たのか。
場所が場所だけに、心臓がヒヤリとした。
どうせここの従業員だろうし、早々に出るべきか。
迷っていると、腕の主がその絨毯へとゆっくり倒れ込む。
絨毯に広がるその美しい黒髪は、見間違える事はない。一条だ。
「…カイジ…様」
寝転がった一条は、虚ろな瞳で此方を見る。
そして気だるそうに起き上がると、髪を手櫛で整えた。
「ここで、何をしていらっしゃるのですか…?」
それは、従業員としての言葉では無かった。
言うならば、純粋な嫌悪。
自分の大切な場所に、知らぬ男が入って来た事への拒否反応。
「あの男が…あの男を殺したのが誰なのか、それが知りたいんだ」
警察に連絡していないなら、一条が捕まる事も無いんだろう。
それでも、放ってはおけない。
「犯人探しと言う事ですか…それならもう分かっていますよ」
一条は、客前で見せるソレとは違う、草臥れた笑みを浮かべる。

「私が殺したんです」

か細く言ったその声が、言葉が、頭を殴られた時の様に響いた。
「本当に…一条が…彼奴の背中…刺したのかよ…」
何度も吃りながら、言いたくない言葉を口に出す。
一条は寂しげに絨毯を見下ろすと、固まって変色した血溜まりを優しく撫でた。
「俺が刺したんじゃない…でも、俺が殺したんだ…」
「どういう事だよ。刺してないなら、殺して無いだろ!」
「それでも、俺が殺したんだ」
煮え切らない一条の態度に、つい大声を出すが、一条は気にせず目を閉じた。

「帝愛もきっと、そう思ってる」
多分それは一人言として呟かれた言葉。
それでも、聞き逃してはいけない言葉だった。

帝愛が、幹部を殺した男をそのままにして置くだろうか…。
いいや。あの意地汚い執念の持ち主である男が、放っておく筈がない。
それでも、一条は受け入れようとしているのか。
その、絶望に身を任せて…。

無意識の内に握り締めていた拳に、痛みを感じて気付く。
目を開けようともしない一条は、もう何も見えないのだろう。
そんな一条が憐れで、そして何故だか美しく思えて、これが女なら、きっと惚れているに違いない。
「俺は、お前の事、信じてるから…」
精一杯の勇気で、それだけ言って部屋を出た。

一条は犯人じゃない。
それだけを強く信じて。






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