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三時間クオリティ!\(^o^)/
月にあわせようとしたらこの体たらくだよ!

一応、黒一と開店だよ!

読み返してないから、誤字脱字は勘弁な!




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その日の仕事が終わり、ビルから出て最初に見たのは、地上を明るく照らす満月だった。
ハッキリと地面に影が出来ていて、その月の明るさが良く分かる。
ただ、銀色に揶揄される事の多い月の光は、確かに周りの色を鮮やかに見せる事はしていない。
白い光を照らして、地上に白と黒のコントラストを作り出していた。

まぁ、それも表の繁華街に出てしまえば掻き消されるモノだが。
「………」
酒が飲みたい。安物でもいいから。
近くの自販機を覗くと、取り敢えずアルコールが取れるニセモノの酒が並んでいた。

小銭を取り出し、どうしたものかと自販機を眺める。
すると、隣に誰かが立った。
「安酒か」
その声に、背中がゾクリとした。

何故、あのお方がこんなトコロに?
横に目をやれば、お付きの者も着けずに立つ、黒崎様の姿があった。
「この後は時間があるのかね?」
こんな月の夜に、貴方と会うなんて。
「ハイ。もう、この後は……」
「それは良い」
俺の言葉を聞いた黒崎様は柔らかく笑い、俺の肩に手を置いた。
その手だけで、俺はつい身体を固くしてしまう。

「なら、私と一緒に飲まないか。勿論、このままここの酒を買って帰ろうと、君の勝手だがね」
貴方の誘いを、どうして断れるでしょうか。
「何処に、連れて行ってもらえますか?」
俺がそう答えれば、黒崎様は満足そうに頷き、そっと手を下ろした。
それが、俺には寂しく思えた。

「付いて来なさい」
その声はまるで、悪魔からの誘いのように、俺の身体を縛り付ける。
恐怖からだとか、上司だからだとか、言い訳しようと思えば出来るかもしれない。
けれど、この感情はきっと……。

不毛な感情に、俺は首を振った。








何処か店に連れて行かれると思っていたが、実際に連れて行かれたのは黒崎様の屋敷だった。
通された部屋は、正面に大きな窓のある部屋。
この広い屋敷の客間というには少しシンプル過ぎる内装で、どちらかと言うとプライベートな部屋の様に思える。
そのせいか、少し自分の身体が緊張で震えている事に気付いた。

それにしても、何故この方はお付きも着けずに俺の元に来たのだろう。
使いでも出して下されば。
いつもの黒服を着けて、カジノに来て下されば。
俺は変に勘違いをする事も無い。
いつもの仕事だと割り切って、こんな緊張をする事も無かったのに。

黒崎様に促され、三人掛けのソファに座る。
だが黒崎様は座らず、先程使用人が用意したワインの入ったグラスを持ち、窓の方に向かう。
そして、不意に黒崎様は部屋の明かりを消した。

ビクリと身体が震え、心臓が煩く跳ねる。
「あの……」
俺が声を出すと同時に、黒崎様はカーテンを開け放った。
白い光が窓から差し込み、部屋に深い陰影を付ける。
そのモノクロの世界で、黒崎様の持ったワインだけが、美しい紅色を放っていた。

「黒崎…様……」
美しいと、素直に俺は思った。
誰かに理解して欲しいとは思わないし、思えない。
ただ、俺はこの男が、美しいと思ってしまった。
あまつさえ、この男を欲しいとまで。
太陽を手に入れようとして翼をもがれた神話はあるが、月を手に入れたいと思ってしまった場合、どうなるのだろうか。

俺がただ、動く事も出来ずに黒崎様を眺めていると、黒崎様はゆっくりと俺の前まで来た。
そして手を伸ばし、優しく俺の髪を撫でる。
その指先だけで、蕩けそうになる心が嫌だった。

「君にはワインが良く似合う」
黒崎様はそう言って、俺にワインを差し出す。
その時口に含んだワインは、今まで飲んだどのワインよりも美味しく思えた。








錆びた窓枠から空を見上げれば、空全体に雲が広がっているのが確認出来た。
迫っているとか言う台風のせいだろう。
折角、今日は一年で一番月が美しい夜だと言うのに、これでは意味が無い。
窓から顔を引っ込め、振り返って見えるのも、俺の持ってきたワインをコップに注ごうとしている馬鹿だけだ。

「一条ってワイン好きだよなー」
気の抜けた声でカイジが言う。
「高いのによく買うよな」
カイジは、コップに注いだワインに口を付ける。
高い安いの問題じゃないだろう。
大体、そこらのスーパーなら安いワインだって売っているし。
俺がいつでも馬鹿高いワインを買ってるとでも思っているのか?
まぁ、今日は少し高めだが。

「カイジくん。知ってるか?葡萄酒ってのは、世界最古の酒って言われていてな、神話や聖書にも登場するんだ」
いきなりそんな話を始めたせいか、カイジは不思議せうな顔をする。
「へぇ?何?梅酒のブドウ版みたいなの?」
「馬鹿!ワインの事だ」
コイツ、違う酒の話だと思ってやがったのか。
カイジは腑抜けた顔で、ふ〜んとだけ呟く。

「ちなみに、ブドウの花言葉は……」
『酔いと狂気』
いや、これは言わなくても良いか。
「それなら俺知ってるぜ!」
意外なカイジの言葉に、顔を上げる。
「ほほぅ。ガサツなカイジくんにそんな知識があるとは思わなかったな」
俺の言い様にいつもなら怒っているトコロだが、珍しく話せる事が見つかったせいか、嬉しそうな顔をしていた。

「どっかで最近見たんだよ。アレだろアレ」
カイジはピンと人差し指を立てる。

「『慈愛』」

俺の嫌いな言葉だ。
それにしても、カイジくんが自信満々な表情で『慈愛』!
その不意打ちに、思わず笑ってしまった。

「ところがどっこい、それは野ブドウの花言葉です!」
俺が笑った事と、ちょっとした勘違いを自信満々に言ってしまった事で、カイジは顔を赤く染めていく。
「に…似たようなもんだろ」
ゴニョゴニョとカイジは呟いて、ワインを口に運ぶ。
そんなカイジを眺めて、俺はまた笑った。

「今日は間違えてばかりだな」
俺がそう言うと、カイジは「うるさい」と言って、そっぽを向いてしまった。
そんな事もお構い無しに一通り笑うと、俺もワインの入ったグラスを手に取った。

意味があったハズのワインに、一年焦がれ続けたハズの満月。
それはこんなに呆気なく忘れるモノだっただろうか。
いいや、去年までは違った。明らかに。
一人でワインを飲み、月に焦がれた。
また、あんな日が来てくれないかと。

コイツに出会ったせいだ。
バツが悪そうに、今目の前でワインを飲んでいるこの男の。

小さく、ため息を吐いた。
何故よりによって、この男なんだろうかと。
ただ、来年からはきっと、満月を焦がれる事は無いのだと、酔い始めた頭でそう思った。








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