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開店で小話です。
一条の休日に、カイジが乗り来んできた話。


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カーテン越しに入ってくる昼間の柔らかな光と、部屋に広がるコーヒーの香ばしい香り。
後は好きな曲を流し、小説でも読み始めれば、充実した休日を送れる事だろう。
だが、今日はそうもいかなそうだ。

淹れたてのコーヒーを口に含み、テーブルの向かいに座っている男を見た。
その男は、先程俺が作ったハムエッグサンドを頬張っている最中だ。
バリバリと小気味の良い音を立てて、男はハムエッグサンドを噛み締めた。

「一条って、飯作んのも上手いんだな」
上手くも無いお世辞は良いから、さっさと消えろ。
いきなり電話してきて、俺が休みだと聞けば押し掛けやがって。
「うわ。コーヒーも美味い!やっぱインスタントとは違うな」
それくらいの違いは誰でも分かる。
豆の違いも分からねぇクセに。

「で、何の用なんだい?カイジくん」
一呼吸置いて聞いてやれば、カイジは小さく唸る。
「ちょっと恥ずかしいんだけどさ」
図々しく人の家で飯をたかるお前から、恥ずかしいなんて言葉が出てくるとはな。

「一条の、声が聞きたくなって…」
俯いて、指先でカップを弄りながら言うカイジは、顔を少し赤らめた。
本当に、予想の付かない男だ。
そんなトコロが俺は嫌い。

「なら良かったな。目的は達した。帰れ」
テーブルの下からカイジの足に軽く蹴りを入れれば、カイジはため息を吐いた。
「いやそうじゃなくてさ…」
まるで俺が何も分かっていないような口振りで。
「何だよ。ほら、声は聞いただろ?帰れ」
何故、折角の休みをこんな訳の分からない男に潰されなきゃいけない。
本当は、今頃買い物に出掛けて、贔屓にしているカフェにでも行こうと思っていたんだ。
それがこの男のせいで…。

俺が睨むと、カイジは呆れた顔でハムエッグサンドを口に運んだ。
「一条ってさ、俺の事なんだと思ってんの?」
「クズ」
間髪入れずに答えてやれば、カイジは顔を歪めた。
「そういう意味じゃなくて」

別に、カイジが言わんとしている事くらい分かっている。
だが、それを素直に口に出すのは、どうも癪に触る。
「ま、体の相性は良いとは思ってるよ。カイジくん」
コーヒーを飲み、カイジに言ってやる。
すると、カイジはムッとした顔をしながら、少し赤くなった。
耐性の無い奴だ。

「それだけで、俺と一緒に居るのか?」
カイジは手を握り締め、俺を見た。
その表情に、今度は俺がため息を吐いた。
「ハイハイ。愛してるよカイジくん。大好きだ」
軽く声に出してやり、空になったカップを持ってキッチンに向かう。
カップを水に付け、テーブルに戻ると、カイジは険しい顔でハムエッグサンドを咀嚼していた。

その口元に付いた玉子を、椅子に座りがてら指で掬って食べる。
すると、カイジはポカンと口を開けた。
「何だよ」
意外な反応に戸惑ってそう聞くと、カイジは照れながら指をモジモジと動かす。
「いや、その…」
本気で照れやがって。
全く、扱いづらい。
いや逆か。簡単過ぎるのか。
免疫が無いんだ。こういう事に。

「カイジくん」
声を掛ければ、カイジは期待を込めた顔で此方を見た。
成る程、此奴がすぐ人に騙される理由が良く分かる。
「やっぱりクズって顔してるな」
俺が言えば、カイジはまたムッとして、空になった皿とカップを持ってキッチンへ消えた。
どうやったら、あんな馬鹿が育成されるのか。

そんな事を思いながら、目を瞑って椅子の背もたれに寄りかかった。
外から車の走っていく音や、鳩の鳴く声が聞こえる。
目を瞑った事で、やっと聞こえるような小さな音だ。
流しを流れていく水の音が途切れ、カイジの気の抜けた足音がする。
不意に、唇に柔らかい何かが触れた。

それは軽く震えていて、不器用に重ねられている。
精一杯の勇気を出して起こした行動なのだろうと、直ぐに分かる。
慣れていない、まるで中学生が初めてするような、そんな雰囲気だ。

その柔らかい何かが離れると、吐き出された息が顔にかかる。
馬鹿だなぁ。
目を瞑ったまま、前にいるであろう彼の頭を引き寄せ、此方から深く唇を重ねてやった。
「……ん…」
彼の声が短く漏れる。
頭の中パニックだろうなぁ。

腕を解き、解放すると共に目を開ければ、情けない顔をしたカイジの姿が見えた。
あぁ。
この顔は嫌いじゃない。
性格が悪いって?
今に始まった事じゃない。
俺は、この惚けたような、カイジの情けないお顔が大好きだ。
だって、こんな顔を見ていると、カイジはもう俺のモノだって分かるから。

自然と口角が上がっていたのか、カイジは少し嬉しそうな顔をする。
勘違いもいいとこだ。
「好きだよ。一条」
照れながら、カイジが言う。
当たり前だろ。そんな事。
今更嫌いだなんて言ったら、俺はお前を許さない。
「一条っていつも忙しくて会えないから、会って触れたかった」
カイジの手が、俺の頬に触れる。
その手は汗でじっとり濡れていて、緊張しているのが分かった。

「それに…」
その言葉から、カイジは口を尖らせる。
恥ずかしい時にする口だ。
「一条が俺の事忘れてそうで…心配だったから……」
小さい声で呟かれた言葉に、思わず目を見開いた。
分かっていたが、やはり馬鹿だ。此奴は。
普通言うか?その相手に。聞かれてもいないのに。

両手でカイジの頬を勢いよく挟む。
同時に、パンッと高い大きな音が響いた。
「お前なんか嫌いだ!嫌い!」
椅子から立ち上がり、別の部屋に向かう。
後ろからカイジの情けない声が聞こえるが、構わず寝室に入った。
ドアを閉め、ベッドに倒れ込む。

「一条ぉ。何で怒ってんだよ…」
ドアの向こうから、カイジの声がする。
バカ。バカ。バカ!何で分からない!
枕を引き寄せ、顔を埋めた。
「何か言っちまったなら謝るからさ…」
謝るのは良いからもう帰れ。

「……俺の気も知らないで…」
声に出てしまったその言葉に、情けなくてシーツを握り締めた。
そりゃ、カイジの事なんて仕事中は忙しくて忘れてたさ。
けど、そんなのお互いそうじゃないか。
自分の会いたい時は来るクセに、俺が会いたい時は全く連絡を寄越さない。
我が侭なのは分かってる。
けど、「会いたい」だなんて、そんな事。
口が裂けても言いたくなかった。
言えなかった。

堪らなくなって、枕をドアに投げ付ける。
その音で諦めたのか、カイジは一度ドアをノックした。
「ごめんな。今日はもう帰るからさ」
悄気た声でカイジは言って、その足音が玄関へ向かう。
急いで起き上がり、音を立てないように寝室のドアを少し開けて玄関を見た。
その時にはもう、カイジは靴を履いている最中で。

こんな女々しい自分は嫌いなのに。
カイジが、玄関のドアに手を掛ける。
引き留める?
出来る訳が無い。そんな事。
カイジみたいに、素直になれたらどんなに楽か。
でも、本当にそう成りたいとは思えない。
未練がましくカイジを眺めていると、カイジが不意に振り返った。
その瞬間、バッチリ俺と目が合う。

「一条…」
ニヤリと笑うカイジに、思わずドアを閉めた。
ドスドスと部屋に上がる足音と、嬉しそうな声を上げるカイジに、恥ずかしさで顔が熱くなる。
「やっぱりもうちょっと居るから、出たくなったら出てこいよ!」
楽しそうに言って、リビングの方へ歩いていく。

「うるさい!帰れクズ!バカ!死ね!」
寝室のドアを蹴り上げて叫ぶも、最早それは何の説得力も無い。
また弱味を見せてしまった屈辱に、俺は泣き出しそうになる。

どれもこれも、全部アイツが悪い。
ベッドに飛び込み、掛け布団を被る。
何であんなクズに俺は……!



そうして、俺の貴重な休日は浪費されて行った。








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工事中
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