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ひたすら一条を性的に虐めたら、可哀想な事になった。

前半、和也(+村上)に一条が虐められる。
後半、パニックを起こした一条の被害妄想(黒一)。
といった内容になっております。
そのせいか、後半につれて文章が崩壊していきます。

今回の黒崎はひたすら一条に優しいですが、それも道具の手入れに過ぎないと思うと、更に一条さんが可哀想になりますね。



そういえば、もうすぐカウンターが2000です。早いですね。
もしも2000を踏まれた方がいらっしゃいましたら、リクエストを承りますよ!^ω^



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王様の命令







ある時、フラりと和也坊っちゃんがカジノにやって来た。
噂には聞いていたが、成る程よく似ている。
目鼻立ちもそっくりだが、何よりその顔に浮かべた気味の悪い笑顔がよくもまぁ、ここまで似るものだ。
傍らに居るのは黒服ではなく、重そうなトランクを持たされた若い女達だが。

早々と出迎えると、品定めでもするようなネットリとした視線を向けてくる。
いよいよ俺も、二代に渡って王様に虐められるらしい。
最早そういう遺伝子にでもなっているんじゃなかろうか。

それでも笑顔を絶やさずに見返していると、和也は喉を鳴らして笑った。
「確かに、アンタ顔は良いな。嫌われる訳だ」
どうやら会長の事を言っているらしい。
「けど、同時に気に入ってもいるみたいだから来てみたが…」
気に入っている?どこが?
精々、俺の苦しんでる顔が、とかだろう。
「よく分かったよ」
一人で楽しそうに笑うと、和也はカジノを見渡した。

「俺も少し遊んで行こうかな」
和也の呟いた言葉に、ため息が出そうになる。
突然の接待ほど、面倒な事は無い。
酒を飲ませて良い気持ちにさせるような、普通の接待ならばまだ良い。
だがギャンブルでは、勝たせるだけでなく適度に負かせ、あたかも自分の力で勝っているように思わせなければ意味が無い。
それを行うには、それなりに経験のあるベテランスタッフが必要だ。

ところが、今日はイマイチ経験の浅いヤツしか居ない。
そのバランスを上手く取れるか…。

「オススメは?」
和也が楽しげに聞いてくる。
この男はどうやら、こうして従業員を困らせて遊んでいるようだ。
だが、こちらとしては好都合。
「ポーカーか、ブラックジャックはいかがでしょうか」
スロットやパチンコのような、設定に全く手の出せないモノよりか、ディーラーの居るモノの方がマシだ。

「ふぅん。沼は勧めないんだ」
沼を打つ?
負けるに決まってるモノを、接待中に打たせられるものか。
「ご勘弁下さい。アレを簡単に出されては困りますから」
見え透いたお世辞をサラリと言ってやれば、和也は鼻で笑う。
そして、ブラックジャックのテーブルに座った。

途端にそのテーブルのディーラーが、泣きそうな顔で此方を見る。
最悪な事に、一番ディーラーを始めて日が浅い男だった。
二度目のため息を噛み殺し、ディーラーの肩を叩く。
このテーブルに、他の客が居なくて本当に良かった。

「お前は、和也坊っちゃんに何か飲み物を用意してくれ。俺がやる」
そう言ってその男を逃がし、和也の前に立った。
「おっ!アンタがディーラーやってくれるんだ」
嬉しそうに言う和也の姿に、一応安心する。
「えぇ。他のお客様もいらっしゃいませんし、私と二人だけの勝負になりますが」
まぁ、だからこそのブラックジャックだとは思うが。

「ならさぁ」
テーブルに肘を付き、和也は会長に似た笑顔を浮かべる。
嫌な事を考えている時は、同じ顔をするのだな。
「この勝負に俺が勝ったら、アンタの事好きにして良い?」
そう言って俺を見る目は、酷く歪んだ光を放っていた。

「お手柔らかに、お願いします」
否定も肯定もせず微笑む。
すると和也は、また楽しげに笑った。


若い女達が和也に追い出され、トランクだけが和也の足元に残る。
何を思ったのかお茶を運んで来た従業員にも、和也は意外と愛想よく受け取った。
俺がトランプを切っていると、遠くで心配そうにしている村上が見えた。

どうせ負ける接待ギャンブルだ。
今更どうイビられようと、さほど辛いとは思えない。
多少の事なら、和也が店に来た時点で覚悟済みだ。

「では、始めましょうか」
和也に二枚のトランプを渡した。







結果を言ってしまえば、予定通り俺の負け。
最初は勝ちを少なめに、最後の方で逆転…なんて王道なストーリーは、何度も経験しているだろう。
最早そんなモノは、面白みも何もない事だろう。
だからと言って、その逆の最初は勝ちを多めにし、最後で逆転されそうになりながらもそれを許さず勝つ。
もしくは、ずっと一進一退で最後に勝つ。
なんてストーリーも、何度か経験していそうだ。

大体、最後は必ず勝つような、作り話めいた流れは慣れているだろう。
誰も、あの会長の息子を不機嫌にさせる事などしたくないだろうからな。

そこまで考えて、一つ賭けに出てみた。
和也が大きく掛ければ負かせ、小さく掛ければ勝たせてみる。
時々大きく張った時に勝たせたり、小さく張った時に負かす。
結果、勝った数の方が多いが、資金としては若干のマイナス。

勝負だけを見れば勝ちだが、ギャンブルでは負けというトコロだ。
こんなやり方は接待ではなく、せいぜい普通の客にやる手法だが。
和也はその結果に満足しているようだった。

「13勝7敗で300のマイナスか…微妙なところだな。上手いね。アンタ」
「ありがとうございます」
和也に微笑みかけながら、トランプを回収して整える。
次にチップに手を伸ばした時、和也の手が俺の手首を掴んだ。

「あの…?」
和也と目を合わせれば、和也はそのまま俺の身体を引き寄せる。
「まぁマイナスではあるけど、勝ち越したのは事実だろ?付き合ってくれよ」
この親子には、目眩がする。

「それを貴方が本当に勝ちと思われるのでしたら」
嫌そうな素振りは出さないように、遠回しに拒否をした。
だが、和也はクスクスと笑って手を離す。
「なら、もう一勝負するか?」
勘弁してくれ。
今度のため息は、耐えずに吐き出した。

「仕事が終わるまで、待って頂けますか?」
俺が言えば、和也は満足そうに頷いた。







「いやぁ、ホントにアンタの顔ムカつくわ。生理的に」
仕事が終わり、店長室に和也を迎えいれた途端に言われる。
「私にとっても、この顔は一つの重りですよ。醜い顔に生まれたいとは思いませんが、人並みの方が生きやすいのは事実ですから」
嫌味っぽかっただろうか。
言ってから思う。

トランクをソファの横に置いた和也は、玩具でも見るような目で俺を見た。
少なくとも、同じ人間とは思われていない。
手招きされて近付くと、和也は舐めるように俺の身体を眺める。
だから嫌なのだ。この顔は。

「なぁ。いいもんやるからケツ出せよ」
そう言った和也は、カバンからそれなりの大きさがあるバイブを取り出した。
でも、分かっていた。初めから。
「…その太さは、女性用に思われますが」
肛門に入れるタイプは、もう少し細いハズだ。
「ん?あぁ、元々は女に使おうと思ってたからな。でも頑張れば入るだろう?」
頑張るのは一体誰だと言うのか。

それ以上は和也は何も言わない。
仕方なく、和也に見られながらスラックスに手を掛けた。
シワにならぬ様に脱いだスラックスは椅子に掛け、下着に手を伸ばす。
ジャケットを脱ぐのは制止され、下だけ何も履いていないという、何ともアンバランスな恰好となった。

そのまま次の言葉を待つと、和也はそっと俺の腿に触れる。
それだけで、吐き気がする程気持ちが悪かった。
「良い肌してんじゃん。金使ってんの?男なのに。自分の役割、良く分かってんだ」
継ぎはぎみたいな言葉は、全て皮肉にしか聞こえない。

「ほら、膝ついて尻出せよ」
和也はゼリーの入ったチューブを弄びながら言う。
素直に従い尻を向ければ、肛門に風が触れて少し不安になる。
そこにゼリーを載せた和也の指が触れ、塗り付けるように動く。
肛門の周りを撫でる指が不快で、不意に挿れられれば、その僅かな排泄感と痛みに眉を寄せた。

「意外と締まってるな」
「うっ…!」
グイグイと指で入り口を広げられ、その苦しさに声が漏れる。
「もしかして、使った事ない訳じゃないよな?」
こんなトコロ、使う事があるものか。
いつの間にか増やされた指を感じながら、何とか口を開く。
「ぅあっ…まだ…そこは……っ!」
息が苦しくて、それ以上続かない。
大体、素直に答えたトコロで、和也を面白がらせるくらいしか出来ない。

「さぁて、入るかな」
バイブの先が、尻に触れる。
こちらもゼリーが塗られているようで、嫌な感覚がした。
「よいしょっ!」
「ひぎっ…!」
ゼリーの滑りを借りて、バイブの先が肛門を抉じ開ける。

裂けるような痛みと、直腸から圧迫される苦しさに、自然と涙が溢れた。
「っ……ハッ…ぅ…!」
息をするのもままならず、手の平に爪を立てる。
その様を嘲笑うように捩じ込まれるバイブが、腸を抉るように思えた。

「ぃた…痛いっ…痛いぃぃ!」
溢れる唾液も構わず喚くと、和也の手が止まる。
そして、バイブをゆっくりと抜き始めた。
「あっやだっ…ぁううっ!」
途端に感じる排泄するような感覚に、徐々に思考が麻痺を起こす。
「もぅ…やだぁ…っ」
膝に力が入らない。
一旦入り口近くまで抜かれたバイブは、締まりの緩くなった腸を勢い良く抉った。
「あぁあぁぁっ!」
絞り出すように声を上げれば、和也の手の平が俺のペニスに触れる。

「初めてにしては上出来じゃん」
和也がそう呟きながら撫でる俺のペニスは、あの苦しさの中でも緩く勃ち始めていた。
それを目で確認すると、腸がキュウキュウとバイブを締めつける。
「なん…で…」
信じられずに俺が言うと、和也は俺の髪を掴んだ。

「アンタはそういう奴なんだよ」
耳元で、冷たく囁かれる。
「ケツ穴を男に弄られて感じるような、そんな浅ましい男なんだよ。一条サンは」
僅かにバイブが引っ張られる感覚の後、キリキリと何かが動く音が聞こえた。

「はっ…あぁ!」
腰に広がる衝撃に、身体が大きく震える。
ついに動き出したのだ。
今思えば凶悪な太さであった、あのバイブが。

「や…あっ…ひぐっ」
上手く息を逃がせない。
それでも、確かに感じ始めていた甘い痺れが、腰に広がっていくのを感じる。
「かずっ…和也様!」
堪らず、なんとか声を上げた。

「お願い…します。口で…口でならいくらでも奉仕致します…!ですから、もう…!」
口に他人のペニスをくわえ込むなど、絶対にしたくなかった。
でも、このままでいたら気が狂いそうだ。
掠れた声で必死に懇願する俺を見て、和也は目を細めた。

「いや、俺アンタじゃ勃たないから」
その言葉は、本当に俺を玩具としてしか見ていない。
そういう意味でもあった。
この行為は、俺を苦しめて遊ぶだけの行為でしか無い。
言ってしまえば、これがバイブで無くとも構わないのだ。
数人で殴るリンチでも、指を折るでも良い。
要は、他人の苦しむ姿が見れれば良いのだから。

「あ…う……」
声にならない。
そうだ。分かっていた事だ。
この男にとって、俺は人間じゃない事くらい。

頬に涙が伝う。
それがまた無様で、更には和也を喜ばせているようで耐え難い。
それでも痺れ続ける身体に、頭を降った。
「ぃやだ…っん」
和也の指が顔に伸び、口内をまさぐる。
親指が舌を捕らえると、口の端から唾液が零れた。

「ふぁ……」
「でもさぁ、そんなにチンコくわえたいなら、入れてやるよ。俺のじゃないけど」
和也はそう言うと、クスクスと笑い出す。
「そろそろかな」

和也の視線を追ってドアを見れば、そこには見馴れた男が立っていた。







「おいでよ。村上…だっけ」
一人だけ楽しげに、和也が呼ぶ。
村上の視線は真っ直ぐ俺を向き、口は薄く空いている。

見られている。この失態を。あの男に。
下だけを脱ぎ捨て、和也にバイブを入れられ、浅ましくも興奮してしまっているこの姿を。

村上はゆっくりとドアを閉め、フラフラと近付いてくる。
その表情は信じられないと言った様子で、呆然と俺を見た。
「アンタ、これに興奮してんだろ?だったら丁度良い。食べさせてやれよ」
和也が軽い声で村上に言う。
それは半分以上、命令であった。


一瞬村上は顔を歪めたが、ズボンのファスナーを下げ、ゆるく勃ったペニスを取り出す。
そして俺の前に立つと、今までに見た事の無い顔で俺を見た。

「店長…」
熱のこもった声で呟くと和也が口から手を抜き、代わりに村上のペニスが口内に入り込んだ。
途端に独特の生臭さを感じて後ろに下がろうとするが、後ろにいる和也がそれを許さない。
「んぐっ…うぅ…!」
口を塞がれた苦しさと、嫌な苦味と甘味が広がり、涙が止まらない。
「ほら、いくらでも奉仕するんだろ?してやれよ」
「ふぅうっ」
和也が尻を叩き、バイブの振動が腰に響く。
もう一度村上を目だけで見上げると、村上の口元が微かに笑っているのが見えた。

「早くやらないと可哀想じゃん。それとも、フェラよりイマラチオの方が良いの?」
和也の手が俺の髪を掴み、前に押しやる。
「ぉえっ…!」
喉の奥まで差し込まれるペニスにえずく。
思わず村上のスーツを掴み、顔を上げた。

「やれます…からぁ…っ」
掠れた声で言えば、和也は頭から手を離す。
「じゃあ早くやれよ。村上が辛そうだろ?」
ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべて和也が言う。
それを確認すると、俺は村上のペニスに手を伸ばした。
反り返ったペニスは確かな硬さを持ち、睾丸の方からビクビクと脈打っている。
黒く変色し、剥けきっているそれは酷くグロテスクで、近付けばツンと鼻を通る臭いに顔をしかめた。

それでも、濡れたペニスの先端に舌を這わせて舐め上げる。
「ぅおっ…店長…!イイです!」
ペニスを持ち上げて裏筋を舐めていくと、陰毛が鼻に触れた。
フェラなんかした事が無いから勝手が分からない。
ペニスをくわえ込んで舌の腹で舐めてみると、先走りの液が溢れてきた。

苦い。臭い。気持ち悪い!
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い!
違う。こんなのは違う。こんなの俺じゃない!

「うぅっ…!」
ボロボロと涙が流れ、それでも舌を動かす。
不意に感じる甘い痺れは、尚も身体が快楽を感じている事を意味した。

「あっ…出ます!」
村上が、苦しそうに声を上げる。
それにびっくりして村上のペニスを口内で圧迫すると、口内に独特な味が広がった。
勢い良く飛び出されたその精液は、喉に当たって食道を流れ落ちる。
口を開くと、唾液で汚れたペニスがズルりと出てきた。

きたない。くるしい。はやくださなきゃ。
「おえっ…おぇええ…っ!」
吐き気が込み上げ、その場で胃液の混ざった精液を吐き出す。
それはびちゃびちゃと汚ならしい音を立て、床に広がった。

なんでおれが。どうしておれだけが。
こんなつらいおもいをしなきゃいけないの?

「うぇえ…あ…うぁあああ」
しゃっくりをしながら泣き声を上げると、二人が俺を見下ろす。
「店長…あの…申し訳ありませ…」
「何泣いてんの?」
和也が笑いながら呟き、また俺の尻を叩いた。
その瞬間、頭の中で何かがブツリと切れる音がした。

その場にぺたりと座り込み、呆然と二人を見上げる。
こわい、こわい、こわい。
もういやだ。帰りたい。
尻を床に着けようとすれば、ガタガタと音を立てて、腹に入れられたままのバイブが震える。
そうして更に深く入り込んだバイブは、新しいトコロを揺らし始めた。
「あぅ…やだもう…」
前立腺を抉るバイブが、強い快楽を頭に伝える。

「たすけてよぉ…」
上がる熱に浮かされ、内腿を擦り付ける。
村上のスーツと和也のズボンを握って揺らした。
もうだしたい。もうイきたい。
楽になりたい。助けてよ。

「離せよ」
冷たく呟き、和也の足が俺を蹴る。
そのまま何度も蹴りつけられ、吐瀉物で汚れた床に倒れ込む。
そして無理矢理尻を持ち上げられた。
「たくよぉ…」
和也はポケットからローターを取り出す。
そのローターのスイッチを入れて振動を確認すると、和也はローターを俺のペニスに押し当てた。

「ひぁああああっ!」
既に硬くなっていたペニスをローターが刺激し、バイブの快感までもが強まる。
「あっ…ひっ…イっちゃ……」
唾液を飛ばしながら身悶えると、和也は乱暴にローターの位置を動かした。

「あふぁあああ…っ!」
目の前が真っ白に弾け、身体から力が抜ける。
強い快感が頭の先まで貫き、ペニスから精液が吹き出した。
その精液は床に飛び散り、吐瀉物と混ざる。
「ふぇ…」
ローターがペニスから離れ、バイブのスイッチが切られた。
それと同時に、下半身に違和感を感じる。
射精とは違った、尿道を伝う感覚。

「あぅ…だめぇ……」
「はぁ?」
バイブに手を伸ばしていた和也は、俺の言葉に首を傾げる。
だが、次に聞こえた音で和也は目を見開いた。

「オイオイ。おもらしかよ」
ペニスの先から、細く尿が流れ落ちる。
力の抜けきった身体ではソレを止める事が出来ず、ふやけた頭では止めようとまで思い至らない。
ただ、じょろじょろと水音を立てながら床を汚す尿を、足の間から眺めていた。

きもちい…。

目の前が白くなり、そのまま消えた。









目を覚まして初めに見えたのは、青くなった村上の顔だった。
床の汚れは掃除され、服も下は元々着ていたスーツを着せられている。
色々な体液で汚れたジャケットとワイシャツはビニール袋で包まれ、代わりに夜勤用に用意していたモノに着替えさせられていた。

「大丈夫ですか?店長」
伸ばされた村上の手を咄嗟に避けると、村上は顔を歪める。
「…申し訳ごさいません…俺には、心配する権利などありませんよね」
申し訳なさそうに言う村上の顔に、あの時の薄く笑った顔が被って気持ちが悪い。

「この服は…お前が?」
目を伏せたまま聞く。
「ハイ。あのままではあまりにも…失礼とは思いましたが、身体も拭かせて頂きました」
村上が、俺の身体を拭いた?
そのことへの嫌悪感に、吐き気がする。

「和也坊っちゃんは?」
吐き気を堪えながら聞けば、村上は一度口ごもる。
「それが…和也坊っちゃんはもう帰られたのですが、その…一言」
歯切れ悪く続けた後、俺の様子を伺うように切る。

「また遊びに来る…と、仰っていました」

目眩がして、ソファの背もたれに頭を置く。
また遊びに来る。
また、アレをされる。
人としての矜恃さえ踏み潰され、抗う事も許されない。
あんな時間がまた…。

「店長…?」
不思議そうに、村上が呼ぶ。
その声に、あの時の恐怖が身体を貫いた。
「出ていけ!この部屋から…!」
村上の肩を突飛ばし、力いっぱいに喚く。
もう村上の声なんか聞きたくない。
村上の顔なんか見たくない。

ソファの上で丸まり、部屋を出ていく村上の音を聞く。
それでも、ガタガタと身体が震えて止まらない。
混乱した思考の中で掴んだのは受話器で、そのまま何も考えずに番号を押した。
電子音が暫く流れ、それがまるで暗闇の中を歩いているようで、涙が溢れた。

「―――…どうした。」
漸く聞こえた声。
混乱と安心で、上手く声が出ない。
それでも泣いている事は伝わったのか、ため息が聞こえてきた。
「何かあったのか?泣いていては分からん。電話を掛けてきたなら、説明しなさい」
冷たいようで、気遣っている喋り方。
それにまた安心して、受話器にすがり付いた。

「黒崎…様…黒崎様ぁ…!」
説明しなきゃいけないのに、上手く喋れない。
本当はこの程度の事で、黒崎様に電話なんかしたら迷惑なのに。
…そうだ。
黒崎様の手を煩わせるような事じゃない。
心配を掛けてしまう。
困らせてしまう。
俺なんかのせいで。

「一条…」
これ以上、困らせてはいけない。
少しずつ冷静に成り始め、受話器を握り締めた。
「申し訳…ありませっ…もう、大丈夫ですので…大した事では……」
「一条」
静かだが良く通る声が、俺の言葉を遮る。
あぁ、怒らせてしまった。
俺がこんな小さな事で電話なんかしたから。
きっと今の時間、お休みになっていたんだ。
それなのに、こんな面倒でしかない電話をしたから。
どうしよう。
黒崎様に見捨てられたら、どうやって生きて行けば良いんだろう。
俺がこんなに弱い事が分かってしまったら、きっと黒崎様は俺なんかいらないって…。

「落ち着きなさい。一条。今迎えを送るから、私の家に来なさい。お前はカジノに居るのかな?」
いやだ。捨てないで。見限らないで。
「あの…大丈夫です!俺、ちゃんと店長もやって…和也坊っちゃんの相手だって出来ますから…」
「和也坊っちゃん…?あぁ、そういう事か」
あぁ、墓穴を掘った。
違う。どうしよう。俺が全部悪いんだ。
俺がこんなに弱いから。
「あ…う…私は…」
手の平から、受話器が滑り落ちる。
「一条。いいから一旦私の家に来なさい。迎えは送ったからな」
落ちた受話器から、黒崎様の声が聞こえる。
もう、駄目だ。








店長室まで迎えに来た黒服に連れられ、光沢のある黒い車に乗せられた。
店長室に居る間、受話器からは黒崎様の声が聞こえていたが、何を言っているのか分からなかった。
でも、きっと俺の事を怒っていたのだ。

黒崎様のお宅に着くと、立とうとしない俺を黒服が運び出す。
客間まで運ばれるように入ると、そこには既に黒崎様が居た。
俺の姿を一目見ると、黒崎様は眉を寄せる。
きっと、こんな汚ならしい俺の姿に幻滅したのだ。
ずっと、黒崎様の前では美しく居ようと努めていたから。

あぁ、もう俺は捨てられるんだ。
黒崎様は厳格な方だから、他人に任せず自らの口で伝える為に、俺をここに呼んだんだ。
そう思うと、黒服に支えられてやっと立っていた足から力が抜けた。
そのままそこに座り込むと、黒崎様が近付いてくる。
俺の目の前に立ち、黒服を部屋の外に出した。

「一条、何を怯えている」
黒崎様が冷たく俺を見下ろす。
捨てられたら、一体どうしよう。
きっと店長のままでは居られない。
「和也坊っちゃんと何があった?何も言わなければ分からんだろう」
「私は…大丈夫です…やれます…」
すがるように黒崎様を見上げる。
だが、疲れたように黒崎様はため息を吐き出した。
「詳しい事を説明しなさいと言っているのだ。分かるな?」
近くのソファにもたれ、黒崎様は腕を組む。
詳しい…事。

「…今日、和也坊っちゃんが、カジノにいらっしゃいました。それで、遊んで行かれると言うので、私がディーラーを勤めてブラックジャックをしました」
震える声で、説明を始める。
「勝負が付いた後、店長室に和也坊っちゃんを通しました。それで和也坊っちゃんがバイブレータを取り出して、それで…」
喉が苦しい。
これ以上話したら、黒崎様は俺を嫌いになる。
だって、俺はもう綺麗じゃないから。
「それで…私のココに…それを…それで、村上が……」
舌が回らない。説明が出来ない。
こわい。たすけて。

腕を前で交差し、自分の身体を抱き締める。
このまま俺は、壊れていくんだ。







「一条」
黒崎様が俺の名前を呼ぶ。
喉が圧迫されたように苦しくて、返事が出来ない。
息をするのが精一杯で、涙が滲んだ。
「落ち着きなさい。もう終わった事だ」
黒崎様の手の平が、俺の髪を撫でる。
そのまま滑り、涙の跡で汚れた頬を包み込んだ。
温かくて、辛くなる。

「ですが…私は……」
感じてしまったのです。
確かに、快感を。
絶頂まで上りつめ、小便まで漏らした。
浅ましく、卑しい身体なのです。

黒崎様の手を押し返した。
触れて貰う資格なんか無い。
捨てるなら、無理に優しくなんてしないで。

黒崎様が、またため息を吐き出した。
あぁ、もう終わった。見限られた。捨てられた。嫌われた。
俺が弱いから。汚れたから。電話なんてしたから。困らせたから。
駄目だ、もう。
あぁそうだ。どうせ黒崎様に捨てられるなら、どこか遠いトコロに行こう。
そして死のう。一人で。ひっそりと。
そうすればきっと、黒崎様にだって迷惑はかからない。そうしよう。

不意に身体が引かれ、温かな温度に包まれる。
それが黒崎様に抱き締められたからだと理解したのは、数秒後だった。
「黒崎…さま」
頭が、再び混乱する。
どうして、こんな事をするの?

「冷静になりなさい」
ポンポンと背中を叩き、黒崎様は俺の身体から離れる。
「お前は良くやった。和也坊っちゃんの事は私に任せなさい」
今までで一番優しい声で、黒崎様は俺に言う。
「お前の仕事はなんだ?」
手の平が、俺の頬を拭う。
「カジノの…店長としての業務です…」
俺が答えれば、黒崎様は満足そうに笑った。
「なら、それだけをしていなさい。大丈夫。お前は美しいんだ」
そう言って、黒崎様は俺の頭を撫でた。

「良いの…ですか?」
視界が滲む。
黒崎様を、見ていたいのに。
「あぁ。無理はせんよう頑張りなさい」
捨てないでくれた。こんな俺を。
美しいって、頑張れって仰って下さった。

ボロボロと涙が流れる。
そんな俺を黒崎様は抱き寄せ、ソファまで連れていく。
ソファでもしっかりと肩を抱き、泣きじゃくる俺をずっと見守って下さった。

「酒は飲めるか?」
少し落ち着き、涙が止まった俺に黒崎様が聞く。
まだ声が出せず、首を横に振った。
「少しでも、飲んだ方が良いかもしれんぞ」
濡れた睫毛に黒崎様の指が触れる。
「黒崎様が飲めと仰るなら…」
「そういうモノでは無いだろう」
苦笑しながら、黒崎様はテーブルに置いてあったウィスキーに手を伸ばす。

本当は俺がやらなきゃいけないのに、黒崎様から離れられない。
少しでも手を離したら、また泣いてしまいそうで。
「どうだ?飲めるか」
ウィスキーの入ったグラスが差し出される。
「申し訳ありません…」
片手でグラスを受け取り、口を付けた。
ウィスキーの苦味が強調されて脳に伝わり、気分が悪くなる。
「……飲めません」
「そうか。無理はいかんな」
黒崎様がグラスを回収し、残りのウィスキーを口に含んだ。
黒崎様の肩に頭を預け、目を閉じる。
喉の鳴る音がして、また安心する。

黒崎様が俺をまだ見捨てないで下さるなら、頑張れと仰って下さるなら、俺はまだやれる。

「黒崎様…」
腕を絡めて、黒崎様に肌を寄せた。
迷惑だろうに、面倒だろうに、黒崎様は俺の髪を撫でてくれる。
伸ばされた手の平に頬を寄せ、唇を付けた。










店長に、とんでもない事をしてしまった。
あんなのはただのレイプだ。
和也坊っちゃんに強要された?
違う。俺の意思だ。
辞表を出そう。
このまま俺が働いて良いハズが無い。
店長が俺に死ねと言うなら、死んででも償おう。

早めに沼の調整を済ませ、店長室へ向かう。
電話は無いが、今日も店長は出勤しているだろうか。
無断欠勤しても無理はない。
昨日は何故か黒服に連れて行かれたが、何だったのだろう。
とりあえず、ダメ元でノックする。

「入れ」
店長の声。出勤したのか。
ドアを開けて店長室に入ると、店長はいつも通りソファに座って書類を見ていた。
「あの…店長…」
俺が声をかけると、店長は俺を見る。
「沼の調整は終わったのか?」
昨日の錯乱した時の声とはまるで違う、元々の綺麗な声だ。
「ハイ。終わりました」
胸ポケットに手を伸ばし、書いて置いた辞表を掴む。

「店長。昨日は、本当に申し訳ありませんでした!」
頭を下げ、はっきりと言った。
謝って許される事じゃない。
それは分かっている。
「お願いします」
辞表を店長に差し出した。

「村上…顔を上げろ」
店長は俺の手から辞表を取る。
顔を上げて店長を見ると、冷めた目で辞表を見ていた。
「いらないんだよ。こんなモン」
そう呟き、おもむろに店長は辞表を破いた。
ビリビリと音を立て、辞表はただの紙くずになる。

「もう二度とするな」
強く、店長の瞳が俺を見た。
俺がやっとの事で返事をすれば、店長は柔らかく笑う。
昨日の朝と何ら変わらぬ笑顔で。
「…まだ客も来てない事だし、コーヒーでも飲むか。喜べ、黒崎様が良い豆を下さったんだ」
嬉々として、店長は豆を挽き始める。

強いなんてモンじゃない。
どうして、つい昨日レイプしてきた男に対して、そんな笑顔が見せられるんだ。
どうして、何もなかったかの様に振る舞えるんだ。
その笑顔が恐ろしく、背中がゾクゾクする。

ずっと完璧だと思っていたこの人の内側には、一体どれだけの傷を隠しているのだろう。
人格さえ崩壊しかねない傷を抱え、これほどまでに完璧を装う事が出来るなら、きっと俺は店長に何かあっても分からない。
自分一人で抱え込み、それを表に決して出さない。
どうすれば、そんな事が出来ると言うのか。


「どうした村上。座れよ」
何故彼は、それほどまでに頑張れるのだろう。








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